税理士事務所のAIツール活用例|守秘義務を守りながら使うコツ
公開日:執筆:WiLBfv編集部
生成AIを、事務所の業務に使ってみたいと考える税理士の方が増えています。一方で、「顧問先の情報が漏れないか」が心配で、踏み出せない方も多いのではないでしょうか。この記事では、便利な使い道より先に「AIに入れてはいけない情報」を決めることを軸に、活用例と注意点を整理します。
この記事で分かること:
- 税理士事務所でAIが役立ちやすい業務と、任せてはいけないこと
- 守秘義務・個人情報の観点から、入力してよい情報・いけない情報の線引き
- ツールを選ぶときの確認点と、事務所のAI利用ルールの作り方
この記事は、AIツールを業務で使うときの一般的な注意点をまとめたものです。法的な判断が必要な場合は、所属の税理士会や弁護士などの専門家にご確認ください。(2026年10月時点の情報をもとにしています)
税理士事務所でAIが役立ちやすい業務
AIが役立ちやすいのは、「顧問先が特定されない文章や情報」を扱う、下書きや整理の作業です。
たとえば、次のような使い道があります。
- 顧問先向けのお知らせ文の下書き:年末調整の案内、資料提出のお願い、休業日のお知らせなど。
宛名や個別の内容を入れずに、ひな形を作る使い方です - 事務所内マニュアルの整理:箇条書きのメモを、読みやすい手順書の形に整えます
- 会議メモの要約:顧問先の情報を含まない、事務所内の打ち合わせメモを短くまとめます
- Excelの関数・マクロの相談:「この表で、期限が近い行に色をつけたい」といった操作の方法を聞きます
- 公開情報の読み解きの補助:法令や通達など、公開されている文章の要点を整理する手がかりにします
どの使い方にも共通するのは、AIの出力は「下書き」や「たたき台」だということです。
特に税務に関わる内容は、税務判断そのものはAIに任せず、税理士が確認することが前提です。
AIに任せてはいけないこと
最終的な税務判断と、根拠を確かめていない回答の流用は、AIに任せてはいけません。
生成AIは、もっともらしい文章で誤った内容を答えることがあります。
存在しない条文や、古い制度を前提にした説明が混ざることもあります。
そのため、次のような使い方は避けましょう。
- AIの回答を、根拠条文や通達を確かめずにそのまま顧問先に伝える
- 個別の取引について、AIの判断を最終的な結論として採用する
- AIが示した数字や計算結果を、検算せずに書類に使う
公開情報の読み解きに使う場合も、原文(法令・通達・国税庁の公表資料など)にあたって確認してください。
AIは「調べ始めるきっかけ」と考えるのが安全です。
また、AIを組み込んだ仕組みを外部に公開する場合は、別の注意も必要です。
たとえば、一般の方からの税務相談にAIが自動で答えるような設計は、税理士でない者が税理士業務を行うことを禁じた規定との関係で、慎重な検討が必要と考えられます。
守秘義務・個人情報の基本
AIを使う前に、税理士事務所が守るべき3つのルールを確認しておきましょう。
税理士法第38条(秘密を守る義務)
税理士法第38条では、税理士は正当な理由なく、業務で知った秘密を他に漏らしたり、盗用したりしてはならないと定めています。税理士でなくなった後も同じです(e-Gov法令検索:税理士法)。違反には罰則も定められています。
顧問先の情報をAIサービスに入力することが、この義務との関係でどう考えられるかは、利用するサービスの仕組みや契約内容によって変わる可能性があります。事務所だけで判断せず、専門家の意見も聞いておくと安心です。
なお、事務所の職員についても、秘密を守る義務が別に定められています。AIを使うのは所長だけとは限りません。職員を含めた事務所全体のルールにしておくことが大切です。
個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月)
個人情報保護委員会は、2023年6月2日に生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しています
(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」)。
事業者向けの主なポイントは、次のとおりです(要約)。
- 個人情報を含むプロンプト(AIへの質問や指示)を入力する場合は、利用目的を達成するために必要な範囲内かを十分に確認すること
- 本人の同意なく個人データを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われる場合、個人情報保護法に違反するおそれがあること
- 入力する場合は、サービス提供者がそのデータを機械学習に使わないことなどを十分に確認すること
つまり、「入力したデータがどう扱われるか」を確かめずに、個人情報をAIに入れるのは避けるべきということです。
マイナンバーは入力しない
マイナンバー(個人番号)を含む情報は、番号法によって、使える目的や提供できる場面が厳しく限られています。
一般的な個人情報よりも厳しいルールです。
(個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」)
そのため、マイナンバーはAIサービスに入力しないことを、事務所のルールとして明確にしておくことをおすすめします。
入力してよい情報・いけない情報の線引き
AIに入力する情報は、「OK」「NG」「グレー」の3つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 区分 | 情報の例 | 考え方 |
|---|---|---|
| OK | 顧問先が特定されない一般的な文章、法令・通達などの公開情報、事務所内の一般的な手順 | 業務に使いやすい範囲 |
| NG | 氏名、会社名、マイナンバー、口座番号、住所、具体的な取引内容、決算の数字 | 入力しない |
| グレー | 名前などを消した(匿名化した)データ、業種や地域だけを残した事例 | 事務所のルールで決める |
注意したいのが「グレー」の情報です。
名前を消しても、業種、地域、売上規模、特殊な取引などを組み合わせると、顧問先が推測できてしまうことがあります。
「名前を消せば大丈夫」と考えず、どこまでなら入力してよいかを、事務所で具体的に決めておきましょう。
迷うものは、入力しない側に倒すのが安全です。
ツールを選ぶときの確認点
AIツールを業務で使う前に、「入力したデータがどう扱われるか」を事前に確認しましょう。
AIツールの仕様やプランの内容は、頻繁に変わります。
そのため、この記事では具体的なサービス名やプランは紹介しません。
どのツールを使う場合も、次の点を利用規約や管理画面で確認してください。
- 学習への利用:入力したデータが、AIの学習に使われない設定・契約になっているか
- データの保存場所と期間:入力した内容が、どこに、どのくらいの期間保存されるか
- アカウントの管理:事務所の管理者が、職員のアカウントをまとめて管理・停止できるか
- ログ(利用記録):誰が、いつ、どのように使ったかを後から確認できるか
- 契約の主体:職員個人の無料アカウントではなく、事務所として契約・管理できるか
特に注意したいのは、職員が個人の無料アカウントで業務に使ってしまうケースです。
設定によっては、入力内容の扱いが事務所の想定と違うことがあります。
業務で使うツールとアカウントは、事務所として決めておきましょう。
事務所のAI利用ルールの作り方
AIを安心して使うために、事務所の利用ルールを文書にしておくことをおすすめします。
ひな形として、次の6つの項目を入れておくと整理しやすくなります。
- 目的:何のためにAIを使うか(例:文章の下書き、手順書の整理など)
- 使ってよいツール:事務所として認めたツールとアカウントだけを使う
- 入力禁止の情報:氏名・会社名・マイナンバー・口座番号・具体的な取引内容など、前の章の「NG」にあたる情報
- 出力の確認責任:AIの出力は誰が、どのように確認してから使うか。税務に関わる内容は税理士が根拠を確認する
- 顧問先への説明:AIを使っていることを、顧問先にどう説明するか
- 見直し時期:ツールの仕様や制度の変化に合わせて、いつルールを見直すか(例:半年ごと)
ルールは、最初から細かく作り込む必要はありません。
まずは「入力禁止の情報」と「出力の確認責任」の2つだけでも決めておくと、安心して使い始めやすくなります。
ルールを作るときは、日本税理士会連合会や所属の税理士会が公表している情報がないかも確認しておきましょう。
事務所の業務の流れを整理し、AIを使う場所・使わない場所を一緒に決めることもできます。
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AIを組み込んだ業務ツールを作るという選択肢
一般向けのAIサービスをそのまま使うのではなく、事務所の業務に合わせた小さなツールにAIを組み込む方法もあります。
たとえば、次のような使い方が考えられます。
- 事務所内マニュアルの検索:手順書やよくある質問から、必要な情報を探しやすくする
- 定型文の作成補助:資料提出のお願いなど、決まった形の文章の下書きを作る
このような仕組みを考える場合も、顧問先の秘密情報を外部に出さない設計が前提です。
どの情報をAIに渡し、どの情報は渡さないかを、作る前に決めておく必要があります。
なお、AIを使わなくても解決できる業務も多くあります。
たとえば、資料提出のお願い文は、足りない書類の一覧から決まった形の文章を作るだけでも十分な場合があります。
WiLBfvが公開している書類回収管理ツールのデモでは、足りない書類を書き出した催促文の下書きを作る機能を試せます(表示しているデータはすべて架空のものです)。
大切なのは、「AIを使うこと」を目的にしないことです。
まず業務の流れと、扱う情報の線引きを整理し、そのうえでAIが役立つ場所を選ぶ。
この順番は、税理士事務所の業務効率化や業務ツールの選び方で紹介している進め方と同じです。
まとめ
税理士事務所でAIを使うときは、便利さより先に「入れてはいけない情報」を決めることが大切です。
- AIが役立ちやすいのは、顧問先が特定されない文章の下書きや、情報の整理
- 最終的な税務判断はAIに任せず、税理士が根拠を確認する
- 税理士法の守秘義務、個人情報保護委員会の注意喚起、マイナンバーのルールを確認する
- 入力する情報を「OK・NG・グレー」に分け、グレーは事務所のルールで決める
- ツールは、入力データの扱いとアカウント管理を確認してから選ぶ
- 事務所のAI利用ルールを、6つの項目を目安に文書にしておく
法的な判断が必要な点は、所属の税理士会や弁護士などの専門家にご確認ください。
WiLBfvでは、業務の流れの整理から、AIを含む業務ツールの設計までご相談いただけます。
ホームページと業務ツールを同じ窓口で担当しているため、事務所全体のWeb活用もあわせて考えられます。
くわしくは業務ツール開発や税理士事務所向けのページをご覧ください。
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よくある質問
Q.顧問先の資料をAIに読み込ませても大丈夫ですか?
守秘義務や個人情報保護の観点から、慎重な判断が必要です。利用するサービスの契約内容(入力データの扱い)を確認し、事務所のルールを決めたうえで、必要に応じて専門家にご相談ください。
Q.AIの回答をそのまま顧問先に伝えてもいいですか?
AIはもっともらしい誤りを出すことがあります。必ず税理士が根拠を確認してから使いましょう。
Q.無料のAIツールを業務で使ってもいいですか?
入力した内容の扱いがサービスや設定によって異なります。業務で使う前に、利用規約とデータの扱いを確認してください。